読書感想:加藤千恵『この場所であなたの名前を呼んだ』

趣味

こんにちは。

朝井リョウさん関連で、最近朝井リョウさんと加藤千恵さんのポッドキャスト「信頼できない語り手」が大好きで、毎週聴いています。

その中で、加藤千恵さんの話し方や言葉の選び方が面白くて素敵で、ふと「どんな物語を書くんだろう?」と思い、小説を読んでみたくなりました。
何を読もうか迷ったのですが、Xの相互フォローの方が『この場所であなたの名前を呼んだ』が良かったと教えてくださったので、そちらの本を読んでみました。

この場所であなたの名前を呼んだ

あらすじは以下のとおりです。(講談社HPより引用↓)

NICU(新生児集中治療室)を舞台にした、
小さな命をめぐる感涙の物語。
新生児仮死で生まれてきた赤子の母、
胎児に染色体異常があると告げられた女性、看護師、臨床心理士、清掃員、医師ーー
さまざまな視点から描かれる、NICU(新生児集中治療室)という「この場所」。
小さな命のきらめきに、こんなにも心を動かされる。
医療現場を舞台に著者が新境地を拓いた連作長編小説。

NICUに関わる人達が登場人物となり、それぞれの章によって主人公が違います。

最初は軽い気持ちで読み始めたのですが、気が付いたらしっかりと心をもっていかれていました。
印象的だったのは、どの登場人物にも「一面では語れない事情がある」ということでした。

例えば、NICUに入っている乃愛ちゃんに会いに来ない母親を批判していた看護師の合田さん。
母親のその姿だけ見ると、私も合田さんと同じように「冷たい人だな」と思ってしまっていました。
でも読み進めていくと、母親自身は、自分の親が手術も出来ない状態の癌になったことがわかり、毎日どうしていいか分からず家で泣いて過ごしていたこと、また、乃愛ちゃんのお姉ちゃんを預ける先もなく、一緒に病院に来ることも難しかったこと等、実は母親自身も苦しい状況にあって、会いに行かなかったわけではなかったのです。

人って、つい目に見える部分だけで判断してしまいがちですが、その裏には色々な背景や感情があるので、簡単に判断してはいけないと改めて感じました。

この物語の中で一番心に残ったお話が、「願う場所」です。
18トリソミーのダウン症で生まれてきた心ちゃんのお話。

「18トリソミーの赤ちゃんは、出産にたどりつく前に、お腹の中で亡くなってしまう事も多く、なんとか産まれても、半数ほどは1ヶ月以内に、9割ほどは1年以内に亡くなってしまうデータがある」と小説の中で説明されていました。

妊娠中にダウン症だと分かったときに、旦那さんが「中絶っていうのは、もう難しいんでしょうか」と聞いた心境。
その言葉に憤りを覚えた奥さんの心境。
どちらの気持ちも理解できたし、それぞれがその立場で必死に考えた結果の言葉なんだと思うと、非常に心苦しくなりました。

そして、心ちゃんが厳しい状態になった時のお母さんの言葉。

「ずっと生きていてほしかった。できるだけ長く。わたしの人生よりも長く。だけど、心が苦しいのなら、もう無理しなくていい。ずっと頑張ってくれていたんだから、もうこれ以上、頑張らなくていいんだよ。ありがとう。心、ありがとう。」p.161

生きていてほしい気持ちを、これ以上苦しませたくない気持ち。
どちらも本物で、どちらも手放せない。
その矛盾を抱えたまま出てきた言葉に、ただただ涙でした。

実はこのシーンを読んでいて、以前飼っていた愛犬のことを思い出しました。
(人と犬を比べるな!と思う方もいるかもしれませんが、私にとっては大切な家族なのでご理解いただければ幸いです。)
最後は、目も見えず、耳も聞こえず、歩くことも出来ない状態で、毎日薬を飲ませ、家で点滴をしながら生きていました。
「もっと一緒にいたい」「長生きしてほしい」気持ちと、
「これ以上苦しいなら、もう頑張らなくていいよ…」
と思う気持ちが、ずーっとずっと自分の中にありました。

だからこそ、この小説のあの言葉が、自分の記憶と重なって、より強く心に残ったのだと思います。

この小説を読んで感じたのは、
「人を一面だけで判断しないこと」
「簡単に分かった気にならないこと」
そんな当たり前だけど忘れがちで大切なことでした。

命を扱う重いテーマではありましたが、読んで良かったです。

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