読書感想:朝井リョウ『何者』

趣味

こんにちは。

最近朝井リョウさんの小説にハマっております。

朝井リョウさんの小説を読んでいると、読み終えた後はいつも「ズーン…」と重い気持ちにさせられます。

数冊読んできて感じたことですが、
朝井さんの本は、単純に誰かを悪者にするわけでもなく、分かりやすい正解を用意してくれているわけでもありません。
登場人物の「痛さ」や「ずるさ」や「弱さ」を容赦なく描いています。
そして作品を通して、「それって本当に正しい?」「自分はそっち側に立っていない?」と静かに自分の心に問いかけてきます。
読んでいるうちに、自分の中にある意地悪さや、保身や、見ないふりをしてきた心の醜い感情に向き合わざるを得なくなります。

それが読み終えたあとの「ズーン…」となる気持ちの原因。
正直しんどいし、余韻に浸りまくって、なかなか現実に戻ってこれない(笑)
でもそのしんどさがクセになるんですよね。
たぶん私は、そういう「簡単に答えを出さない作品」に惹かれているのだと思います。

その流れで読み始めたのが、『何者』でした。

『何者』

この作品は、「就活」をテーマに繰り広げられる人間関係を描いた物語です。

朝井リョウさんは、どの作品においても登場人物の解像度が非常に高いのですが、この作品もしかり。

少し意識が高くて、少し承認欲求が強くて、少しこじれていて、でもみんな必死で頑張っている。
どの人物も極端じゃなく、むしろ現実にいそうなのが、これまた凄い。
そして、読んでいるうちに「これ、自分にもあるな…」と何度も思わされました。

前半は、主人公・拓人の分析に「なるほどなー」と思いながら読んでいました。
また、理香や隆良の言動に「あーこのタイプ苦手だな…」と思ったりもしていました。

でも途中で、ふと違和感が生まれました。
「んで、拓人自身はどうなの?就活うまくいってるの…??」

拓人は、常に冷静に周囲を分析して、その人の痛い部分を言語化して分かったかのような気になって、一歩引いたところから眺めていました。
「これはもしや自分も上手くいっていないんじゃないか?」と思いながら読み進めていったら、案の定最後に理香にガツンと言われていました。
それまで分析をすることで自分のことを守っていた拓人が、理香の言葉を聞いて自分を顧み、最後はカッコ悪くても頑張る姿が描かれていて、ホッとしました。


一方で、理香の言葉は強く印象に残りました。

「自分は自分にしかなれない。
痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。みんなそれをわかってるから、痛くてカッコ悪くたってがんばるんだよ。カッコ悪い姿のままあがくんだよ。」(p.310)


正直、私は理香みたいなタイプがあまり好きではありません。
承認欲求が強くて、プライドが高くて、言わなくてもいいことを言ってしまう。

でもその理香が、自分の痛さを自覚しながらも必死に頑張っている姿には、非常に心打たれました。
痛いと分かっていてもやる。
ダサいと分かっていても動く。
他人からどう思われようとも、がむしゃらに突き進む。
傷つくことを恐れずに突き進んでいく勇気が、素晴らしかったです。


そして、光太郎。
おちゃらけているようで、どこか核心を見ているように感じました。

「俺、拓人に何で内定が出ねえのか、ほんとにわかんねえんだよ。」(p.292)
と言っていましたが、本当に分かっていなかったのかな…と感じてしまいました。

瑞月のことも、ずっと想い続けている人のことも、自分の大事な部分は拓人には決して語らない。
もしかしたら、自分の大事な部分を「分析対象」にされたくなかったのかなと思いました。
そう簡単ではないと思うけれど、想い続けている人と出会えるといいねと純粋に応援したくなりました。


登場人物の中で、私は瑞月に一番共感しました。

両親のそれぞれの気持ちを考えて、自分を二の次にしてしまうところ。
自分の理想よりも現実を第一に考えてしまうところ。
お酒を飲み過ぎた拓人に気づいて、そっと水を渡す優しさを持ち合わせながらも、きれいごとばかり言って動かない人には、我慢できずに言葉を返す強さをもっているところ。
優しいだけだと思っていたので、隆良に言い返していたのは驚きました。


隆良という存在は、正直一番もやっとした人物でした。

夢を追っている側の人間で、就活組をどこか俯瞰しながら「自分は違う」という立場を取る。
でもなにか実績があるわけでもなく、みんなに隠れて就活をしていて、上手くいかなかったら他責する。
正直読んでいて何度も「何目線?」と思いました。
理想を語ったり、夢を追うことは素晴らしいことだけど、どこか上からの空気を感じてしまいました。

私は、自分の正解を絶対視することや、誰かの選択を見下すことに強い違和感があります。正しさはひとつじゃないと思うので。

だからこそ、覚悟が伴っていない理想論や、上手くいかなかったときの言い訳にイライラしてしまいました(笑)

理香は痛い部分はあるけど、腹をくくっていました。
拓人は分析に逃げていたけど、最後は現実を受け入れて頑張ろうとしていました。
光太郎は軽やかに見えて、語らないことで自分の感情を守っていました。
瑞月は葛藤しながらも、自分の選択を受け入れていました。
隆良だけが、覚悟が見えず、中途半端に思えました。
だからこそ、最後まで隆良には共感できなかったのだと思います。



色々とここまで書いてきましたが、ふと手が止まりました。
「何目線?」とイライラしながら、私もまた登場人物をそうやって分析しているやん…。
盛大なるブーメランだなと思ってしまいました(笑)
分析することは良いことだと思うけれど、それが時には自分が傷つかないためにやっている場合もあるのではないかと。
そして、本当に得たいものがあるのならば、なりふり構わず、がむしゃらに頑張ることが大事なんじゃないかと感じました。

こういう風に、モヤモヤさせて簡単に白黒させてくれず、でも、ちゃんと考えさせてくれるからこそ、この物語は心に残るのだろうと思いました。

created by Rinker
¥737 (2026/03/26 14:06:18時点 楽天市場調べ-詳細)


コメント

タイトルとURLをコピーしました